背景
とあるワークショップの宣伝動画をつくることになり、その企画づくりをAIと一緒に進めてみました。ホームページのTOPに置く短いループ動画と、感情に訴える少し長めの動画。そのための素材として、講師の方へのインタビューと、当日の様子の撮影を予定しています。
この記事は、その企画を詰めていく過程で気づいた「AIに"いろいろな立場の人"としてレビューしてもらうと、こんなに学びがあるのか」という話です。案件そのものの中身は伏せて、進め方と、そこで得た気づきだけを書きます。
企画の設計
最初に決めたのは、「インタビューを素材の源泉にして、そこから短い動画も長い動画も派生させる」という設計でした。ばらばらに撮るのではなく、一本の軸から枝分かれさせたほうが、一貫性も効率も両立できるだろうという考えです。
台本や絵コンテ、質問リストといった叩き台は、AIと壁打ちしながらひととおり作れました。ただ、作った本人が「これで大丈夫だろう」と思っている状態は、いちばん危うい状態でもあります。そこで、視点を変えたレビューを何度か挟むことにしました。
"誰の視点でレビューするか"を変えてみる
面白かったのは、AIに「◯◯のプロだったらどう見るか」という立場を与えてレビューを頼むと、返ってくる指摘がまるっきり変わる、ということでした。
まず、映像の演出を数多く手がけてきた人の視点でレビューしてもらいました。すると、台本のコピーやナレーションの一文ずつに「これは弱い」「ここは効く」と優先順位がつき、全体の骨格がぐっと締まりました。自分では横並びに見えていた要素に、はっきり強弱がついた感覚です。
次に、インタビューの質問リストを見直すとき、「コーチングのプロ」と「インタビューのプロ」のどちらの視点で見てもらうべきかを、AIと一緒に考えました。この二つは似ているようで目的が違います。コーチングは話し手本人の内省を深めるための問いで、インタビューは視聴者に届く言葉を引き出すための問いです。今回ほしいのは後者だと整理できたことで、レビューの土台が定まりました。
視点が変わると、見えなかった欠陥が見える
インタビューのプロの視点でレビューしてもらって、いちばんハッとしたのがこれです。
当初の質問リストには、「一言で言うと?」のように、いい言葉そのものをその場で言わせにいく質問がいくつもありました。ところが今回の被写体は"人前で表現することに慣れたプロ"でもあります。こういう人にストレートに名言を求めると、期待に応えて"いい感じの答え"を演じてしまい、映像にすると逆に嘘っぽくなってしまう——という指摘でした。
だから、名言は言わせにいかない。物語を語ってもらって、その途中で不意にこぼれた一言を、あとから編集で拾う。この原則を聞いたときは、素人の自分にはまったく見えていなかった落とし穴で、なるほどと膝を打ちました。冒頭を抽象的な問いで始めると場が冷えるので、具体的な記憶から入る、といった現場のコツも、視点を変えて初めて出てきたものです。
要約したものは、もう一度見比べる
もう一つの学びは、少し地味ですが実用的でした。
現場で使う一枚もののカンペを、それまでに作った資料から要点だけ抜き出して凝縮したのですが、作った直後にAIへ「元の資料と突き合わせてレビューして」と頼んだところ、要約の過程で大事な項目がいくつか抜け落ちていたことがわかりました。しかも、抜けていたのは「これは絶対に外せない」とラベルづけしていた情報だったりします。
要約は情報が落ちる作業なので、凝縮したあとに元資料と一度見比べる工程を必ず挟む。当たり前のようでいて、勢いで作ったときほど飛ばしがちな確認だと痛感しました。
気づいたこと
一連のレビューを通していちばん感じたのは、「どのプロに頼むか」は、"何を最適化したいか"で決まるということです。同じ企画でも、演出の視点で見れば構成の強弱が見え、インタビューの視点で見れば言葉の引き出し方が見え、要約チェックの視点で見れば情報の欠落が見えました。
一人で「どうだろう」と眺めているだけでは、自分の視野の外側は見えません。立場を切り替えながら何度もレビューを重ねるうちに、同じ企画がいろいろな角度から立体的に見えてきて、これはずいぶん学びになったなあ、というのが率直な感想です。
そして、それ以上に感じたのは、いろいろな視点を借りているうちに、自分自身の見え方そのものが少しずつ変わっていったことでした。最初はまったく気づけなかった落とし穴に、途中からは「これはあの視点だとどう見えるだろう」と自分で先回りできるようになっていく。企画がよくなっていくのと並行して、自分自身が一段成長できたような手応えがあって、そのことに素直に感動を覚えました。一つの企画を通して、成果物だけでなく自分の物差しまで増えていく——この感覚こそ、今回いちばんの収穫だったのかもしれません。
まとめ
- 宣伝動画の企画を、AIに"いろいろな立場のプロ"としてレビューしてもらいながら詰めた
- 与える立場(演出/インタビュー/要約チェック)を変えると、返ってくる指摘がまるで変わる
- 「どのプロに頼むか」は"何を最適化したいか"で決めると、レビューの土台が定まる
- 被写体が"表現のプロ"のときは、いい言葉を直接言わせにいかず、物語から拾う設計にする
- 要約して凝縮したものは、必ず元資料と一度見比べる
- 視点を借りて重ねるうちに、成果物だけでなく自分の物差しも増えていく手応えがあった
案件の中身が固まって公開できる段階になったら、完成した動画のほうも、また抽象化しない形で紹介できればと思っています。